製造DXの基盤はERPだけでは足りない?DAM・PIMが拓くサプライチェーン情報戦略
- データ一元管理
- ブランディング
- 顧客体験・データ品質
- 業界アプローチ
製造業においてDX(デジタルトランスフォーメーション)は、いまや経営の最重要テーマの一つとなっています。多くの企業がERPやSCMを導入し、業務効率化やサプライチェーン全体の最適化に取り組んできました。しかし、そうした基幹システムを整備したにもかかわらず、「製品情報やコンテンツが正しく、迅速に顧客へ届かない」という課題が依然として残っています。
市場投入のスピード、顧客体験の質、そしてグローバル展開における競争力――これらは単なる業務効率化では解決できません。基幹システム投資のROIをさらに引き上げるためには、ERPやSCMの“外側”で発生する製品情報・デジタルコンテンツの管理までを含めた戦略が必要です。その中核を担うのが DAM(Digital Asset Management) と PIM(Product Information Management) です。

1. 既存システム(ERP・SCM・QMS)の役割と限界
製造業のデジタル化を支えてきたERP、SCM、QMSは、いずれも経営や事業継続に欠かせない存在です。これらのシステムを導入することで、効率化・品質向上・リスク管理といった成果を得られた企業は多いでしょう。
しかし、これらはあくまで「基幹業務を内側から最適化する仕組み」であり、顧客や市場に向けた情報発信や製品体験を支えるには限界があります。以下でそれぞれの役割と課題を見ていきます。
■ ERP:企業活動の土台を支えるが、顧客体験への橋渡しは不十分
ERP(Enterprise Resource Planning)は、会計、人事、生産、在庫といった企業の基幹業務を統合管理する中枢システムです。ERPの導入によって、データの一元化、部門横断の連携強化、内部統制の向上といった効果を享受している企業は少なくありません。
しかしERPが主に扱うのは「数値データ」や「取引情報」です。製品に関する画像、動画、販促資料、マニュアルといった顧客接点で価値を生む情報は、ERPの管理範囲外にあります。そのため、ERPだけでは「製品をどう魅力的に伝えるか」「市場投入をどう加速させるか」といった課題には十分に応えられません。
■ SCM:供給網全体を最適化するが、情報の鮮度までは担保できない
SCM(Supply Chain Management)は、原材料の調達から生産、流通、販売までを網羅し、在庫削減や納期短縮などサプライチェーン全体の効率化を実現します。グローバル化が進む中で、SCMは企業競争力を左右する重要システムといえます。
ただしSCMの目的は「モノの流れを効率化すること」であり、その流れに載る「情報の鮮度や一貫性」を保証するものではありません。どれだけ供給網を効率化しても、古い仕様の製品情報や誤った画像が市場に流れてしまえば、販促機会の損失やブランド毀損につながります。SCMは効率化の力強いエンジンですが、それを動かす燃料となる「正しい情報」がなければ力を発揮できないのです。
■ QMS:品質を守る仕組みだが、情報伝達には弱い
QMS(Quality Management System)は、製品の品質保証や規格遵守を支える重要な仕組みです。グローバル市場において規制対応が厳格化する中、QMSは企業の信頼性を確保するために欠かせません。
しかし、QMSが管理する品質基準や認証情報は、社内で適切に整備されていても、それがリアルタイムに顧客や流通パートナーに伝わらなければ意味をなしません。例えば、新しい規格に対応した製品であるにもかかわらず、旧仕様の情報や資料が流通すれば、販売機会を逃すどころかクレームリスクにもつながります。QMSは「品質を守る」点で重要ですが、「市場で正しく伝える」役割は担っていないのです。
こうして見ると、ERP・SCM・QMSはそれぞれが不可欠である一方で、「顧客接点における情報の鮮度・一貫性・即時性」を保証するには不十分であることが浮き彫りになります。これが、次に取り上げる「情報分断の問題」へとつながります。
2. サプライチェーンで深刻化する「情報の分断」問題
ERP・SCM・QMSを導入してもなお、製造業が直面しているのが「情報の分断」という課題です。部門ごとに異なるシステムやツールを用いることで、製品に関するデータがサイロ化し、全体の整合性を欠いてしまいます。この“見えない断絶”が、実は大きなコストや機会損失を生んでいるのです。
2-1. 部門ごとに分断された情報サイロ
- 設計・開発部門:CADデータやPLMで仕様を管理
- 製造部門:ERPやQMSで生産データや品質基準を管理
- 営業・マーケティング部門:Excelや独自システム、場合によっては個人管理で製品カタログや販促資料を運用
それぞれが重要な情報を持ちながらも、システムやフォーマットが統一されていないため、横断的な活用が困難になります。結果として「誰が最新のデータを持っているのか分からない」「同じ情報を別々に更新してしまう」といった非効率が常態化します。
2-2. 情報分断がもたらす具体的なリスク
- 更新遅延による市場投入の遅れ
製品仕様が変更されても、販促部門や海外支社に伝わるまでに時間がかかり、新製品ローンチが後ろ倒しになる。 - 誤情報によるブランド毀損
古い画像や誤った仕様書がECサイトやカタログに掲載され、顧客からのクレームや信頼失墜につながる。 - 業務コストの増大
情報の確認や修正のために、メールや電話でのやり取りが増加し、付加価値を生まない工数が積み重なる。
2-3. 経営層にとっての“見えない損失”
この「情報分断」による影響は、単なる現場の手間では済みません。市場投入の遅れは売上の先送りを意味し、誤情報の発信はブランド価値の毀損につながります。さらに、分断を埋めるために人手で調整を繰り返すことは、経営資源の無駄遣いでもあります。
一見すると目に見えにくいこれらの損失こそが、ERPやSCMに投資したROIを低下させる最大の要因となっているのです。
この課題を解消し、サプライチェーン全体で「正確な情報を一気通貫で流す仕組み」を実現するために求められるのが、次に紹介するDAM とPIMの役割です。
3. DAM・PIMが果たす新たな役割
ERP・SCM・QMSが企業の「基幹業務」を支えてきた一方で、サプライチェーン全体で情報の整合性と鮮度を担保する仕組みは不足してきました。その“最後のピース”を埋めるのが、DAM(Digital Asset Management)とPIM(Product Information Management)です。これらは従来の基幹システムを補完し、顧客接点に直結する「情報資産の経営活用」を可能にします。
3-1. PIM:製品情報の一貫性を担保する戦略基盤
PIMは、製品に関する仕様・属性・翻訳・チャネル別情報といった要素を一元的に管理する仕組みです。
- ERPやSCMが保有するマスターデータを、収益を生み出す「顧客向け製品情報」へ
- マルチチャネル(EC、販社、マーケットプレイス)に合わせた情報展開を効率化
- 翻訳や地域特有の規格対応も一元管理
これにより、市場投入のスピード短縮や誤情報削減が実現し、売上機会を最大化できます。
PIMはERP投資の価値を「社内効率化」から「収益貢献」へと広げる存在です。
3-2. DAM:製品コンテンツを収益化につなげる情報基盤
DAMは、製品に紐づく画像・動画・マニュアル・認証文書などのデジタル資産を統合管理します。
- 最新のコンテンツをグローバルの販売拠点やパートナーに即時共有
- マーケティング部門が必要とする販促素材を、常に最新・承認済みの状態で利用可能
- 規格文書や品質証明を正確に顧客へ提供
これにより、販促活動のROI向上や顧客体験の質的向上を実現します。DAMは「正しい製品を、正しい情報で売る」ための土台を提供するのです。
3-3. ERP・SCM・QMSを“生かす”補完的役割
ERPやSCMが「モノと数値」の管理に強みを持つのに対し、DAMとPIMは「情報とコンテンツ」の領域を担います。両者を組み合わせることで、サプライチェーンは初めて「モノ」と「情報」が同期した真の最適化を実現します。
経営層にとって重要なのは、この補完関係が既存投資のROIをさらに引き上げるという点です。DAMとPIMを導入することで、ERP・SCM・QMSに投じた資金が「効率化」から「成長戦略の推進」へとシフトするのです。
次のセクションでは、こうしたシステム連携がもたらす具体的なメリットをさらに掘り下げて解説します。
4. ERP・SCM・QMSとDAM/PIMをつなげるメリット
ERP・SCM・QMSは企業にとって欠かせない基幹システムですが、それだけでは市場投入のスピードや顧客体験の向上といった“成長ドライバー”を十分に支えることができません。DAMとPIMを組み合わせることで、基幹システムに新たな付加価値が生まれ、ROIを大幅に引き上げることが可能になります。
4-1. 製品ライフサイクル全体をカバー
ERPやPLMで設計・生産を管理し、SCMで供給網を最適化し、QMSで品質を保証する。そのうえでPIMとDAMを接続することで、「設計 → 製造 → 品質管理 → マーケティング → 販売」という一連のプロセスが情報面でシームレスにつながります。結果として、新製品投入や市場展開のスピードが飛躍的に向上します。
4-2. リードタイムの短縮による売上機会拡大
新しい製品を市場に投入する際、PIMがERPやSCMのデータを整理し、DAMが販促素材を即座に提供できることで、ローンチまでの期間を短縮できます。これは単なる効率化ではなく、売上を前倒しできる「直接的な収益効果」です。
4-3. 情報エラー削減によるコスト削減
分断された情報管理では誤情報や重複更新が避けられません。PIMとDAMを導入すれば、マスター情報とデジタル資産の一元管理が可能になり、誤情報の発信や再作業のコストを大幅に削減できます。これはROIを目減りさせていた“隠れコスト”を排除する効果があります。
4-4. ブランド価値と顧客体験の向上
常に最新かつ正確な製品情報とコンテンツを顧客や販売チャネルに届けられることで、ブランドの信頼性が高まり、長期的な顧客ロイヤルティの向上につながります。これにより、単発の売上増だけでなく、中長期的な企業価値の向上にも寄与します。
つまり、DAMとPIMは単なる「情報管理の効率化ツール」ではなく、ERPやSCMなど既存投資の価値を最大化し、売上拡大・コスト削減・ブランド強化という複合的なROI向上を実現する“戦略的な経営インフラ”と言えるのです。
5. 事例・ユースケース
DAMやPIMは単なるITシステムの追加ではなく、既存のERP・SCM・QMS投資を“収益化につなげる”役割を果たします。ここでは、実際に製造業で想定される活用シナリオを3つ取り上げます。
■ 事例1:グローバル展開での「市場投入期間の短縮」
ある製造業では、新製品の仕様変更や翻訳作業に時間がかかり、海外市場への投入が平均2〜3か月遅れていました。PIMを導入することで、ERP/SCMにあるマスターデータを一元管理し、多言語展開やチャネルごとの最適化を自動化。結果として、市場投入までの期間を40%短縮し、数十億円規模の売上機会を前倒しで確保しました。
■ 事例2:QMS+DAM連携による「品質文書配信の効率化」
品質規制が厳しい業界では、認証書や試験報告書を常に最新の状態で顧客やパートナーに提供する必要があります。QMSで管理している情報をDAMと連携させることで、承認済みの最新版を即時に共有可能に。これにより、規制対応コストを30%削減しつつ、顧客からの信頼度も向上しました。
■ 事例3:ERP+PIM+DAM連携で「製品ローンチ時の販促ROI最大化」
ERPで在庫・生産状況を管理しつつ、PIMで製品情報を整理、DAMで画像・動画を一元配信する仕組みを構築。新製品ローンチ時に営業・マーケ部門が即座に最新情報と販促素材を利用できるようになり、ローンチ初月の売上が前年比150%に増加。さらに、販促資料の作成にかかる外注コストも大幅に削減されました。
これらの事例に共通するのは、DAMやPIMが単独で成果を生むのではなく、ERP・SCM・QMSといった既存基盤を補完することでROIを押し上げているという点です。
つまり、DAMとPIMは「追加のシステム投資」ではなく、これまでの投資を“攻めの収益化”へと変える経営施策なのです。
6. DAM PIMを統合したDXソリューション「CIERTO」
ここまで見てきたように、ERP・SCM・QMSといった基幹システムを最大限に活かすためには、DAMとPIMを組み合わせた「情報基盤」の整備が欠かせません。そこで注目されているのが、VPJが提供する CIERTO(シェルト)です。
【CIERTOの特徴】
- DAM+PIMを統合的に提供
製品情報とデジタル資産を一元的に管理し、サプライチェーンから顧客接点までをシームレスに連携。 - 既存システムとの柔軟な連携
ERPやSCM、QMSとのデータ連携に対応し、既存投資の価値を損なうことなく拡張可能。 - 各種媒体に向けて最適化するコンテンツ変換
画像や動画、製品情報などマルチチャネルに最適化されたコンテンツへ変換し、市場投入のスピードアップ。 - ROIを最大化する仕組み
市場投入スピードの短縮、販促コスト削減、ブランド価値の強化を通じて、経営層が重視するROI指標を確実に改善。 - セキュリティとガバナンスの強化
承認フローやアクセス権限管理により、誤情報の流通や不正利用を防止。
CIERTOは単なる「情報管理ツール」ではなく、製造業におけるDXの中核を担う統合プラットフォームです。ERPやSCMといった基幹システム投資を「守りの効率化」にとどめず、「攻めの収益拡大」へと変革する力を持っています。経営層にとって重要なのは、CIERTOを導入することによって既存システムへの投資回収を加速しつつ、新たな成長機会を創出できるという点です。

7. まとめ
製造業のDXは、ERP・SCM・QMSといった基幹システムによって大きな前進を遂げました。しかし、これらはあくまで「社内業務を効率化する仕組み」であり、顧客や市場に向けた情報発信や体験価値の創出には限界があります。
サプライチェーン全体を真に強化するためには、製品情報とデジタル資産を一元的に管理し、常に正しく鮮度の高い形で顧客へ届ける仕組みが不可欠です。ここで役割を果たすのが、DAMとPIM です。DAMとPIMの導入により、企業は既存のERP・SCM・QMS投資を「守りの効率化」から「攻めの収益拡大」へと変革できます。市場投入のスピードアップ、販促ROIの最大化、誤情報によるリスクの低減、ブランド価値の強化──これらはすべて経営層が注目すべきROIの直接的改善に直結します。

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執筆者情報
ビジュアル・プロセッシング・ジャパン編集部
ビジュアル・プロセッシング・ジャパン編集部です。マーケティングや商品、コンテンツ管理業務の効率化等について詳しく解説します。
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