DAMとクラウドストレージの相違点と共存:制作ワークフロー効率化と生産性向上による強力な連携機能
- データ一元管理
- 制作・校正・進行管理
以前のコラムで、DAM(デジタルアセットマネジメント)とクラウドストレージサービスであるBoxの比較や、両者を連携させる効果について紹介しました。
今回は改めてDAMとクラウドストレージの相違点を解説します。どちらも「データ管理」の機能を持つシステムですが、その本質と目的(着目点)が大きく異なり、結果として提供される機能にも違いが生まれます。
また、本コラムの後半では、DAMとクラウドストレージの連携について詳しくご説明します。目的の異なる2つのシステムですが連携させることで、制作ワークフローとデータ管理の効率化が実現します。

1. DAMとクラウドストレージの相違点
皆さんは日々の業務でクラウドストレージを使用し、その用途と機能を熟知していることでしょう。クラウドストレージを利用することで、ユーザーはハードウェアを購入することなく、データをクラウドサーバーに保管できます。また、「Google Drive」の場合、Google DocumentやGoogle Spreadsheetなど他のアプリとの連携により、作成した資料をそのままドライブに保存できるなど、非常に便利な機能を持っています。
一方、デジタルアセット管理(DAM)も同様に「ファイル・データ保管」の機能を持つシステムです。しかし、似て非なるものであり、DAMとクラウドストレージは本質的な違いを持っています。下記に、その違いを3点列挙します。
1-1. サービス着眼点の違い
まず、DAMとクラウドストレージサービスは、提供するサービスの根本的な着眼点が異なります。
クラウドストレージは「ユーザー中心」のサービスです。従来、データの保管にはハードウェアディスクやUSBなどが使われてきましたが、データの閲覧・アクセスに不便があったり、ディスクやUSBの紛失によるセキュリティリスクが潜んでいました。
しかし、クラウドストレージがあれば、ユーザーはWebブラウザから簡単にデータをアップロード、閲覧、ダウンロード、共有できるようになります。一言で言えば、クラウドストレージは、ユーザーに手軽なデータ保存とアクセスを提供するツールなのです。
一方、DAMは「アセット中心」のサービスです。画像、動画、ドキュメントなど、業務に不可欠な「デジタル資産」を効果的に活用することは、実は容易ではありません。単なるデータストレージ機能だけでは、アセットの活用には不十分です。例えば、検索がうまくできなければ必要なデータは見つかりません。また、データのバージョン管理がなければ新旧データの違いが把握できず、どれが最新の正しいデータなのかも判断できません。
このため、クラウドストレージを「部屋」に例えるなら、DAMは「部屋の管理役」となります。きちんと整理整頓しないと、物が散乱してしまい、必要な時に欲しいものが見つからなくなります。そこで、すべてのものを整理した状態で管理し、さらに仕事の進行をサポートしてくれるDAMが必要になるのです。
こうした着眼点の違いによって、DAMとクラウドストレージサービス提供対象や機能も異なってくるわけです。
1-2. ターゲットの違い
クラウドストレージのサービス対象は「個人ユーザー」です。前述のように、クラウドストレージは誰もが簡単にデータ保存を行えるサービスです。「ファイルの置き場所に困っている」「いちいちUSBを使うのは煩わしい」といった悩みを抱える一般ユーザーは、大容量ストレージを持つドライブにデータを保存し、より便利にデータへアクセスすることができます。各サービスのデータ容量は、個人向けBoxは無料プランで10GB、Google Driveの場合無料プランでは15GBに至っています。個人ユーザーに対しては大きいキャパシティーだと考えられます。
これに対して、DAMは「企業」に特化したサービスです。企業は一般のユーザーよりも日々処理するデータ量が多いため、より強力な管理ツールが求められます。そのため、多くの企業はDAMを導入し、デジタル資産を一元管理することで、関係者が大量のアセットの中から必要なデータへ容易にアクセスできる環境を選択しています。特に、制作業務が多いマーケティングや出版・メディア業界では、管理するファイルや制作物の量が多く、頻繁な校正(=データバージョンの多さ)も発生するため、DAMは極めて重要なツールとなります。
さらに、企業向けのシステムであるDAMは、「一つのプラットフォームでチーム全体や全社員がアクセスでき、アセットを活用して仕事をすること」を前提として設計されています。これは、一人ひとりが自分のアカウントを管理・操作するクラウドストレージサービスとは大きく異なり、全社が統一されたプラットフォームでデータを管理することで、効率的な一元管理がはじめて実現できます。
1-3. 機能の違い
着眼点やターゲットが異なるということは、提供される機能も大きく異なります。
クラウドストレージは、基本的なデータストレージ機能に加え、「連携」機能を実装しているサービスが多いです。前述のようにGoogle Driveの場合、他のアプリで編集したファイルを直接ドライブに保存できる便利な機能を持っています。さらにBoxの場合は、コミュニケーションツール「Slack」やビジネスアプリ「Salesforce」を含め、1400種類以上のアプリと連携することができます。
なお、ファイルの共有もGoogle DriveやBoxなどのクラウドストレージサービスの大きな特徴です。転送先のメールアドレスを入力し、ファイルのアクセス権限(閲覧・編集)を設定するだけで、簡単にファイルを共有できます。また、共有されたファイルでの即時共同作業も可能で、ユーザーにとって不可欠な機能となっています。
一方、DAMは企業向けの高度なアセット管理システムであるため、一般的な保管やファイル共有機能を超えた、より多様な機能を備えています。
以下に一般のクラウドストレージサービスにない、代表的なDAM機能をご紹介します。
- メタデータ管理:
企業がデータを使用する際、データの有効期限や使用ルールを厳格に守る必要があります。アセットをより適切に活用するため、分類、担当者、有効期限などの詳細情報を管理することが重要です。このため、DAMは優れたメタデータ管理システムを標準で備えています。 - 多角的な検索機能:
迅速にデータにアクセスし、作業時間を短縮するためには、精度の高い検索機能が不可欠です。そこで、全文検索、メタデータ検索に加え、自然言語検索などAIを利用した検索機能が実装されています。 - 厳密なアクセス権限管理:
DAMは、企業や部署全体の人が簡単にアクセスできる設計ですが、アセットの性質やプロジェクトのメンバー構成に応じて厳密な権限設定を行う必要があります。そのため、「プレビュー権限のみ与える」「ダウンロードまで許可する」、あるいは「アクセス不可」など、すべてのユーザーに対してきめ細かなアクセス権限設定が可能となっており安全な環境を確保します。 - バージョン管理:
商品やキャンペーンを公開する際、万が一古いデータを使用してしまったり、新しいデータに誤った情報が含まれていたりした場合、ブランドイメージの損害につながりかねません。それゆえ、DAMにはバージョン管理機能が必須です。新しいバージョンをアップロードするたびに「新バージョン」として登録され、いつ、誰がアップロードしたかの記録も残ります。さらに、新旧バージョンの比較も可能で、ユーザーは変更箇所を明確に把握できます。 - 承認ワークフローとオンライン校正:
アセットのアクセスだけでなく、Webブラウザー上で制作フローを進行できるよう、DAMはオンライン校正や承認環境も提供しています。データをDAMにアップロードするだけで、関係者がアクセスでき、コメントや注釈を直接入力できます。これにより、他の校正ツールを使うことなくDAM内で簡単にオンライン校正が可能です。結果として業務効率の向上につながる上、すべてのステップ、コメント、バージョン履歴がDAM内に残るため、追跡も容易になります。 - 制作ファイル形式のプレビュー機能:
DAMは制作系の業務が多い業界で多く利用されています。そのため、一般的なJPEG、MP4、DOCなどの画像・動画・ドキュメントファイルだけでなく、制作作業に重要なAdobeファイル(InDesignなど)や3Dファイル(CADなど)も、DAM内で直接プレビューできます。これは一般的なファイルストレージにはない特徴です。Adobeアプリケーションがなくてもファイルの閲覧が可能なため、業務がより効率的になります。 - APIによる外部システムとの連携:
クラウドストレージと同じく、より効率的なワークフローを構築するため、APIを利用してDAMと外部システムを連携させることが可能です。例えば、自社の内部ファイルシステムと連携してデータをDAMへ転送したり、コミュニケーションツールと連携して更新があるたびに通知を受け取ったりするなど、APIによって機能拡張を容易に行うことができます。
2. DAMとクラウドストレージの連携:データ管理の強化とワークフロー効率化
本質的に異なるシステムですが、決してDAMとクラウドストレージサービスの優劣を決めるわけではありません。実際、DAMとクラウドストレージを連携させることによって、全体のワークフローがよりスムーズになり、生産性の向上につながります。
2-1. DAMが窓口に:外部クラウドストレージのデータ登録と管理
クラウドストレージと連携することで、ユーザーはDAMから直接データを検索・利用できるようになります。例えば、現在CIERTO DAMはBoxとの連携が可能です。この2つのプラットフォームが連携すると、ユーザーはCIERTOからBoxのデータを参照できるだけでなく、必要なデータを選択してDAM上に取り込み、ワークフローで直接使用できます。原材料となるデータをドライブから、オンライン校正や多様なプレビュー・検索機能を持つオンラインワークスペースとしてのDAMに直接登録することで、データのアクセス時間が短縮され、プロジェクト進行・ワークフローの効率化につながります。
※ Box連携の詳細につきましては、下記のコラムをご参照ください。
2-2. DAMの容量を確保し、スムーズな作業環境を維持
クラウドストレージに保存されたデータをDAMに転送してワークスペースとして利用し、各プロジェクトを進行させることができます。一方、DAMでのワークフローやプロジェクトが完了した後、連携機能によりアーカイブファイルをクラウドストレージへ移管することが可能です。CIERTOは、多くのプロジェクトで使われたコンテンツやデータをプロジェクト終了後も利用可能な状態を維持します。しかし、頻繁に参照する予定のないデータがDAMのスペースを占有してしまう状況も発生します。
そこで、ユーザーはこれらのアーカイブをCIERTOからBoxなどに移管することで、DAMの容量を効率的に確保することができます。完成後のアーカイブをドライブに移管することで、DAMという作業空間を整理整頓できます。このような便利な連携は、企業にとって計り知れない大きなメリットをもたらします。
2-3. DAMのアーカイブデータ閲覧
ただし、ドライブにアーカイブされたデータが、DAMから一切閲覧できなくなるわけではありません。データが転送された後も、画像のプレビューやメタデータ情報はDAMに残されます。つまり、DAMに残された情報を使ってデータを検索・再利用することが可能です。最終的にデータがクラウドストレージで保存されても、DAMを利用して容量を圧迫することなく、無制限にあらゆるデータの検索と管理ができます。余分な容量を使わずに、すべてのストレージサービスにあるデータを一括管理でき、かつメタデータ・アーカイブデータを再利用することができます。DAMとクラウドストレージサービスの連携は、ユーザーに想像以上の利便性とコスト効果をもたらします。
3. まとめ:DAMとクラウドストレージは「共存」で真価を発揮する
今回は、DAMとクラウドストレージの相違点と、両者を連携させる魅力について詳しく解説しました。両者は「似た者同士」だと思われがちですが、DAMと一般的なドライブサービスは、設計の着眼点もターゲットも異なるため、機能面において大きく分岐しています。しかし、私たちの業務で広く使われるクラウドストレージと、オンラインワークスペース兼データ管理システムとしてのDAMが連携することで、データアクセスの時間を大幅に削減できます。これは、ワークフローの効率化や生産性向上に直結します。
したがって、DAMとクラウドストレージは決して「排他的」なものではなく、むしろ「共存」することによって最大の効果を発揮する2つのシステムなのです。
CIERTOはすでにこの共存戦略に取り組んでおり、Boxとの連携に加え、2025年にリリースされたCIERTO 2025.2にはGoogle Driveとの連携を実現しました。ドライブ内のプロジェクトに必要なファイルをCIERTOへ登録したり、逆にCIERTOからファイルをクラウドストレージへ登録したりすることが可能です。こうしたクラウドストレージサービスを日常的に使用している方々にとって、ワークフローを効率化させる絶好の機会となるでしょう。今後もCIERTOは、Dropboxなどさらなるクラウドストレージとの連携に挑戦し、効率的なアセット管理環境とワークフローを提供してまいります。
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執筆者情報
ビジュアル・プロセッシング・ジャパン編集部
ビジュアル・プロセッシング・ジャパン編集部です。マーケティングや商品、コンテンツ管理業務の効率化等について詳しく解説します。
【株式会社ビジュアル・プロセッシング・ジャパン について】
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